Exhibition

展覧会情報

【同時代ギャラリー企画展】Try to go over (t)here 〜2002→2021, and new〜

田中幹人

場所: ギャラリー
会期: 2022-10-10(月) ~ 2022-10-16(日)
時間: 12:00-19:00(最終日は17:00まで)

展覧会内容

あらゆるものがデジタル化可能な社会の中で、私が表現したいのは<アナログだからこそ生まれる感覚>。そこにはアナログな行為をした者だけが得られる主体的感覚と、偶然の美しさ、理屈ではない面白さ、受け入れ難い驚きに出会う客観的感覚がある。その感覚は決してノスタルジーではなく、未来を紡ぐ“何か”の種なのだ。

ロケーションは、「もしあそこに人が居たら」と妄想すると、胸が高鳴るような場所。例えば仰ぎ見るほどの高さの建築物や水面から突き出た杭であり、私は自ら被写体となって、その上、時にはそこから落ちている最中にポーズをとる。一見危険な写真だが、制作の原動力はスリルではなく、妄想を現実にしたいという純粋な欲求である。実は、このシリーズを開始する前は、その妄想の中での人物は「私」である必要はなく、イメージを具現化するために「誰か」がいてくれれば良かったのだが、結局私は自ら被写体となることにしたのだ。<アナログだからこそ生まれる感覚>を誰よりも先に味わいたくなったからだ。

しかし鑑賞者は被写体が作者自身であることを知ると、作品を「セルフ・ポートレイト」の一種であるとみなす。美術史上、数多の芸術家がセルフ・ポートレイトを残しているが、それらには強烈なメッセージが込められてきた。例えば自身を抑圧する社会を告発する、弱者に扮して諸問題を提起する、名画や著名人に扮してイメージを解体する…等々。だが私はといえば。<アナログだからこそ生まれる感覚>———そこにいる私からしか見えない光景を楽しみ、記憶の箱に「私だけの光景」を片付けて、いそいそと持ち帰っているだけなのだ。

そして鑑賞者が「ここから何が見えるのだろう」と興味を持った瞬間、「私だけの光景」は誰も見たことのない特別なものとなり、私はその光景を唯一見た特別な人となる。今や見たいと思えばなんでも見ることができる暮らしの中で、鑑賞者は「見ることができない」というもどかしさに少し戸惑い、新鮮な感覚に心地良ささえ感じるのではないだろうか。

また私の妄想――画、風景、イメージ――は、「世界中のどこか」であり、「人物(私)が写っていなくても美しい世界」である。目に留めもしないような場所であり、視点を変えれば目が離せないような場所である。作品制作過程の中で、そんな場所をみつけた時が一番幸せな瞬間である。影響を受けた写真家は多数存在するが、幼少期に強烈な印象を与えてくれた「ふしぎな絵」(安野光雅/福音館書店 ※)が、私の視点を育てる養分の1つであったことは記しておきたい。

撮影には6×7フィルムを用い、様々なセッティングを整えた後、信頼する人物にシャッターを任せる。フィルムは私がそこへ行ったという証拠でもある。その証拠をデータ化し、その画が持つ力を最大限に引き出す調整を行い、紙に印刷する。

アナログからデジタル、再びアナログで完成する過程は、「アナログ/デジタル双方が必須」の現在、「アナログから得る感覚を再認識」させ、「現実と妄想の間」に生まれた作品自体と重ね合わせることができる。とはいえ、作品から得る感覚は鑑賞者にお任せする。鑑賞者がそれを純粋に愉しみ、私や居合わせた人と共有することが最も大切だからだ。

 

※「ふしぎな絵」安野光雅/福音館書店(1971)…小人たちと建築物、構造物を描いた、だまし絵で構成される作品。

アーティスト詳細

田中幹人(写真家/京都)
1968年 京都市生まれ
1991年 嵯峨美術大学生活デザイン科専攻科卒業
2011年 同校非常勤講師就任
雑誌・広告・ポートレート等で活躍するかたわら、2003年より自らの作品「Try to go over there.」 (旧題「あぶない所へ行ってみよう」)シリーズ製作開始。
個展
1994年 ギャラリー K1(京都)
1996年 ギャラリー K1(京都)
1997年 ギャラリー K1(京都)
1998年 カフェ ブラームス(京都)
2010年  「あぶない所へ行ってみよう」 同時代ギャラリー(京都)
2021年  「Try to go over there.」 同時代ギャラリー(京都)
グループ展/受賞歴/アートフェア等
1996年 清里フォトミュージアム・ヤングポートフォリオ買上
1998年 3人展 ギャラリーそわか (京都)
1999~2019年 How Are you, Photography?展 (京都)
2008~2022年 KAO展 (京都)
2010~2011年 KOBE HEART展 (神戸)
2011年 第13回京都現代写真作家展 優秀賞
2013年 第14回京都現代写真作家展 優秀賞
2019年 シアトルアートフェア(シアトル/米)
      アフォーダブルアートフェア(バターシー/英) 
             コンテキストアートマイアミ(マイアミ/米)
2020年 ロンドンアートフェア(ロンドン/英)
      アートオンペーパー(ニューヨーク/米)